【座談会】療育とアートの接点 ~ワークショップシリーズをふりかえりながら~①

2021-03-20

参加者:
片岡祐介(音楽家)
柏木陽(演劇家)
川口淳一(作業療法士)
砂連尾理(ダンサー)

松本知子(浜松市根洗学園園長)
溝口智美(浜松市根洗学園職員、作業療法士)
野島いずみ(浜松市根洗学園職員、作業療法士)
渡辺涼子(浜松市根洗学園職員、研究者(生涯発達心理学))

オブザーバー:
大橋正季(グループホームすてっぷ施設長)
大橋奈実世(浜松協働学舎根洗寮施設長)

収録日:2020年7月6日(月)13:45~15:45

コロナで実現した「全員集合」

ーー今日は、2016年から始めたワークショップシリーズの講師のみなさんに集まっていただきました。リモートとはいえ、講師全員が一堂に会するのは初めてなんですよね。

園長:すごいね。これ、写真に撮っておきたいくらい。これ見れただけでも大感激だね、うん。

ーー根洗学園のワークショップシリーズは、ダンス、音楽、演劇、作業療法の専門家を講師に迎え、コミュニケーションをテーマとして実施してきました。

そもそも根洗学園がワークショップを始めたきっかけは「学園を開こう」ということでしたね。子どもたちが帰った後の空いている空間と時間を使って、外に開いてみよう、と。それが発展し、ひかりの園(根洗学園の母体となる社会福祉法人)全体の企画として、高齢者施設やグループホームなど法人内の他施設の合同で「一般向け」として開催されました。

ですが今年(2020年度)のワークショップシリーズは、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、開催を見送ることになりました。代わりに改めて振り返りの機会として、こうして座談会を企画しました。まずは園長先生から、これまでやってきての手応えはいかがですか?

園長:細く長くやり続けることの大事さを、すごく感じています。ワークショップを重ねるたびに、そこから見えてくるものがどんどん変わっていく面白さに感激しましたね。2016年から毎年テーマは大きくは変わらず、講師の皆さんもずっと同じ顔ぶれでやっていただいたからこそ、参加者や環境による違いを感じ取ることもできました。

ーー特に印象に残っていることは?

園長:講師それぞれの、プロとしての凄さですかね。片岡さんの耳のよさ。柏木さんは、何もないところから言葉でどんどん生み出していく面白さ。川口さんのワークショップは、その場にいる人たちがつながっていく感覚がすごく強い。砂連尾さんは身体をこんなに愛しく思ってて、そして身体の声を本当によく聞いているなぁ、ということ。

あとはやっぱり参加した人たちがこれから始まることに対して「何をやるんだろう?」というクエスチョンを持ちながら、「やったことないをやろうとする」なんともいえない緊張感が印象に残っています。こんなこと普通やんないよなー、っていうことを体験をした後の高揚感というかね。やった後に感覚が研ぎ澄まされるような。たとえば片岡さんのワークショップでは、どんどん常識が崩れていく。参加者たちが普段「こうでなければならない」と思っている「ねばならぬ」が変わっていくんですよね。

講師ひとり vs お父さん50人

ーー講師のみなさんはそれぞれ、いろいろなところでワークショップを経験されていると思いますが、根洗学園が他と違うところはありますか?

川口:僕のときは、チャレンジングなものが多かったですよね。お父さん50人のワークショップとか(笑)

園長:(笑)

川口:今思うと、なかなかいい経験でしたけど。怖かったですね、あれは。

園長:川口さんはひとりで、お父さん50人に囲まれて。お父さん同士が話せるように、というワークショップでしたね。

川口:父親参観なので、お父さんたちは講義みたいなものを予想して来ていたんですね。ところが部屋に入ったら、椅子が円形に並べてあるだけで。最初からもう「何やらせんだよ」っていう空気が、あの、50人から銃口を突きつけられているような(笑)僕はもう完全アウェイで。でもだんだん、だんだん変わっていったのが面白かった。最後は、お父さん同士が一緒に帰って行ったり。

ーーワークショップではどんなことをやったんですか?

川口:お父さんがお互いに語り合いたいことをあぶり出して、実際にそれをテーマに話し合ってもらいました。たしか1位が「叱り方」で、2位が「自分たちが死んだ後」。1時間半で、けっこう深いところまで行けましたね。

園長:そうですね。

ーー毎年、父親参観が年3回ある中で、どうしたらもっとお父さんたちがしゃべってくれるか、という課題があったんですよね。

園長:そうなんです。翌年は川口さんが、講師がいなくても園の先生たちだけでできる形にしてくれて。お父さんたちがすごくたくさん喋ってくれるようになりましたね。

川口:もう1つは去年(2019年)9月に、大橋さんのいらっしゃる「グループホームすてっぷ」で、一般向けにやったワークショップも印象的でしたね。3グループぐらいに分かれて、白いA4の紙で黙ってタワーを作るっていうのをやったんです。とにかくしゃべらないで、高い塔を建てる。そのとき、一人で黙々と机の上で塔を作り続けていた男性がいたんです。

大橋:そうでしたね。

川口:でもそれを誰も止めないし「こっちに参加しろよ」とかも言わない。会場はもう次のプログラムに移っている中で彼一人ずっとタワーを作り続けていても、そっと、そのままでいていいよという空気があった。ワークショップの現場だからだったのか、それとも普段からそういった雰囲気のある施設なのか。それはわかりませんけど、でも人とはちょっと違う行動をとっていることに対して、何の違和感もなく「いいじゃん」と思ってもらえるような空間が生まれていたのだとすると、やっぱりこういう(ワークショップの)機会は時々あったほうがよさそうだなと思いました。

ーー「お父さん50人」もすごいですけど、一般向けのほうは本当に属性がバラバラで、外部の参加者もいるところに、3つの施設(グループホームや高齢者施設)の利用者さんと職員も混ざっていたんですよね。

川口:そうですね、0歳から90歳ぐらいまで。