【座談会】療育とアートの接点 ~ワークショップシリーズをふりかえりながら~②

2021-03-20

最初は1回きりのつもりだった

ーー園との関わりが一番長いのは、片岡さんですね。

片岡:そうでしたね。クリエイティブサポートレッツで大人向けに音楽の講座みたいなものをやっていたときに、松本先生がいらっしゃって。「こういう園の園長をやっているんですけど、来ませんか」と言われて、行きました。1回きりかと思ったら「次はいつですか」って聞かれて、あれ通うの? みたいな。ロックオンされた感じでしたね。

柏木:自分で連れてきておいて「次いつですか」って聞くのおかしいですよね(笑)。

片岡:でも、そんなに頻繁に通っていたわでもないんです。年に2、3回とか。

柏木:松本園長はどうして片岡さんを呼ぶことにしたんですか。

松本:私、片岡さんワークショップは、浜松特別支援学校でやっていたのとか、レッツでやっていたのとか、結構行っていたんです。で、面白くて。

柏木:(笑)。

片岡:2002年とか、2003年とかじゃないかなと思いますけど。でも「定期的に何カ月に一回やりましょう」とか、そういう感じじゃなくて、一回やってしばらく経ったら「そろそろまたどうですか」みたいな連絡が来る。

松本:細く長く、というお付き合いでしたね。

まるでダンス。学園の先生たちの身体技術

ーー砂連尾さんは最初、職員の研修プログラムとして入ったんですよね。

砂連尾:最初は2011年、職員研修の講師として震災の年に一回呼んでいただいて。その後ちょっと空いて2014年。その後ワークショップシリーズで改めて呼んでいただいて、それからは毎年行っていますね。

ーー無意識かもしれませんが、根洗学園の先生たちは、子どもたちの身体をよく見ています。必ずしも言葉のやりとりが成立するわけではない子どもたちの意思を、身体から読み取っている。身体の専門家というと、業界としては理学療法士や作業療法士という方々が身近な存在ですが、ダンサーも身体の専門家です。感覚的にやっているという点ではダンサーの方が福祉現場とは相性がいいんじゃないか。それが、砂連尾さんが呼ばれた理由でしたよね。

柏木:僕は昨年度(2019年度)のレジデンスで、根洗の先生と子どもとのやりとりを俳優が演じてみる動画をつくりました。撮影時、野島先生と溝口先生に、脚本に書かれているシチュエーションをいきなりやってもらう機会があったんです。そしたら、とんでもなく速いんですよ。速すぎて、先生たちの動きを俳優がトレースできないんです。

ーー教室の中の手洗い場で頭に水をかけて遊んじゃった子がいる。傍らでそれを見ていた子がうらやましくなって水道にやってくるんだけれど、先生が「何?手を洗いに来たの?」と言って、遊ぶ気満々の子を手洗いに誘導してしまう、というシーンでしたね。

柏木:(俳優の演技が)なんとなくうまくいかなかった時に、撮影を見ていた先生に一度やってみてもらったら、すごかったんですよ、動きが。ダンスのようになめらかで。先生たちにとっては普段、教室で振る舞っているスピードなんだけど、俳優の3倍くらいなんです。連れてきた俳優全員があっけにとられて「すげえー」って。

先生たちはロジカルな動きを、感覚でやっている感じなんです。子どもたちの動きは予想できないという前提でありながら、明らかに動きを予想して、気付くとまるで子どもたちが自発的にそれをやってしまったかのように誘導する。すごい技術だなと。それが俳優を入れたことによって一気に見えてきて、すごく面白い体験でした。

ーー柏木さんは2017年度から3年連続で滞在制作を続けて、今年度で4年目になりますね。

柏木:そうですね。2018、2019には映像を作りました。でも2018年度に制作した映像はドキュメンタリーだからプライバシーの都合上、一般公開ができない。そこで翌年は俳優たちが演じるハーフドキュメンタリーにすることで、ようやく外部に見せられる動画が作れました。

片岡:俳優さんができないスピードの動き、というのは興味深いですね。合気道とかで、たくさんの人がいっぺんにワーッと来てもシャッシャッシャってさばいちゃう人、いるじゃないですか。先生たちも、毎日のように子どもを誘導するとか、むしろ引っ張られるような現場に身を置いていることで、そういうふうにさばけるようになっていくのかな。

柏木:完全に達人の動きです。こっちで一人(の子どもを)相手にしながら、あっちで動き出したもう一人(の子ども)が視界に入ってるんですよ。

片岡:カンフーみたいですね。こっちの手で相手を攻めながら、別の方から来る攻撃をもう片方の手の鍋蓋でカンッって防いだりしてるわけでしょ?

柏木:カンッて(笑)、でも、そうそう。

川口:顔の向きが違うんですよね。

柏木:そうそうそうそうそう、そう。

川口:作業療法の作業というのは、まず物を見て、手を伸ばして、自分のところに持ってきて操作する、というプロセスです。でも先生たちの動きは、顔と手の位置が通常と違う。それが、もしかしたらダンスに見える理由のひとつかもしれません。園の先生たちが自分の身体と向き合って、どう感じたのか、気になりますね。

ーー砂連尾さんは逆に、園の先生方に対して、“この人たち、なんかちょっと違うな”と思った場面はありましたか?

砂連尾:ケア的な身体が善とされていることは感じます。それが盲点になるという気もする。だからワークショップでは普段とは違うことをやりましょう、という言い方で、先生方が「えっ?」と躊躇するようなことをやっているつもりです。

松本:面白い、面白い。

砂連尾:それを、まずは園長先生がやってくれるんです。松本先生が何でも面白がってやってくれるので、それにつられて皆さんやってくださる。さっき、柏木さんがお話された水道の場面は、恐らく「複数の関係性を同時に、ひとつの身体で処理している」ということだと思います。僕は合気道をやっていたので、合気道の要素を取り入れたワークもいくつかやりました。

うまくいってない状態もコミュニケーション

柏木:さっきの、一人で黙々とタワーを積んでいる子の話がとってもいいなと思って。(ワークショップシリーズのテーマである)コミュニケーションというと、「同じこと考えてましたね」とか「ロスなく伝わってましたね」みたいなことが「良いこと」とされるわけです。

でもコミュニケーションって「状態」のことなんですよね。つまり、うまくいっていない状態もコミュニケーションだし、ツンツンしている状態もコミュニケーションだと僕は思う。でも、そういうふうに見る人はあんまり多くない。だからタワーの話も、いわゆる一般的な意味では「あの人はコミュニケーションを取ってない」ということになってしまう。でも「あの人、今は積みたいんだね」ということをこっちが理解する、周りが認めていくという状態がちゃんとあるのはすごくいいなと思います。

ーーなるほど。そういった「コミュニケーション」という観点でいうと、柏木さんご自身のワークショップではどんなことが印象的でしたか?

柏木:僕が講師をやらせてもらうときって、幸か不幸か、不可抗力なのか、仕組まれているのか分からないですけど、結構きついんですよね、設定が(笑)。昨日まで「7人ぐらいしか来ないから」と言われてたのに、ふたを開けてみたら20人ぐらいいたり。「おじいちゃんおばあちゃんも参加するから」と言われて、それに合わせて準備していたら当日いなかったり。来ないのかな、と思って始めていたら、途中から来たり。じゃあ、と他の参加者と混ざってもらって続けていたら、途中で「じゃ、これで」って帰っていったり(笑)。

正直やりにくいことも結構ある。だって参加者にとってはペア組んでた相手がいきなりいなくなったりするわけだから、その人に対して、たとえ急にペアの相手がいなくなっても大丈夫な場を提供し続けていかなきゃいけない。そういうことを言うと片岡さんに「いや、それは責任負い過ぎですよ」とかって怒られたりもするんだけど、でも、わりと困惑する場だったことが、僕の修行にはすごく役立ちましたね。

「一般」をなめちゃいけねえぜ

柏木:それとこのワークショップシリーズは「一般向け」と言っていますけど、例えば劇場で「一般向け」と言ったときに、ここまでのバラエティーは、ない。障害を持ってる人から乳飲み子、おじいさん・おばあさん、小学生。これが本当の「一般」じゃん、と思う。

川口:そうそう。今まで高齢者向けとか、自閉症の人たちとか、カテゴライズされた中でやってきていた。でも「一般向けでお願いします」と言われて、いっぱい準備して持ってったら、ぶっ壊されるわけじゃない(笑)? つまり、こちらが勝手に「一般」というカテゴリーをつくっていただけであって。

柏木:いや、本当にそうなんですよ。僕、一般向けワークショップをやってくださいと言われたら、車いすの人が当日いるかもしれないとか、そういう覚悟はいつでもしているつもりなんです。しているつもりだったけど、でも自分の組んできたプログラムが全然無理、みたいなことを実際には発見するわけじゃないですか。もう、こんなにプランが無駄になる場はない(笑)。

でも、それが嬉しい。どうやってここにいる人たちと一緒にやれるのかってことを、常にトライし続ける場に放り込まれる。それは根洗だからこそ起こる場なわけですよ。例えば劇場主催だったら、あれほどまでにバラエティー豊かな参加者はいない。でも本当の一般向けってこっちでしょ、と。一般をなめちゃいけねえぜ、と思います。

それと個人的には、参加者を確保するために行政とかがいろんな施設に連絡して「来てよ」と動員する、みたいなことって、悪くないなと思っているんですよ。だって動員される人って、普段は絶対来ない人でしょ。

松本:うんうん。

柏木:動員でもされなきゃ来ないような人が来るなら、チャンスですよね(笑)。そうやって来てくれた人に「申し訳ないね」とか「付き合ってね」とか言いながらやるのって、ものすごくアリだと思うんです。(昨年やった)一般向けのワークショップだって、ある種、動員の部分もあったりするわけじゃないですか。動員されたから、あのおじいさんやおばあさんは来てくれたわけで。

根洗寮の人たちも、最初は動員ですよ。だけど、その人たちも動員されて来て初めて「ワークショップっていうのがあって」「演劇みたいなのがあって」「音楽っていうのがあって」って知るわけです。それで「今度はダンスがあるんだって。行く?」と言われたときに「行く」って言えるわけじゃないですか。そういう意味では、動員によって参加者層が広がった面はあると思う。だから「動員、悪くもねえぞ」と。